ミヅキ中尉とは?(1年戦争終結〜グリプス戦争勃発) 

 

 1年戦争終結後、ミヅキ少尉は今までの戦績及び諜報活動の成果を認められ、中尉へと昇進する。
1年戦争が終結してから、諜報員としての仕事は山ほどあった。
1年戦争による全体的な被害調査、コロニー落としによる地球環境への影響の再調査等々。
それらに奔走するうち、彼のMSパイロットとしての役割は一時薄れた。
ジオンの残党によるテロ活動が起こるなどの緊急時には
彼もまたパイロットとして駆り出されることもあったが、それは稀なケースだった。

「やることはそれこそ湯水の如くあった。
 今日から1ヶ月、世界的な気候変動の調査、来月は旧日本地区の大津波の影響の調査・・・。
 地球上を東奔西走する日々が続き、時にはMSパイロットとして出撃をする。
 目の回るような忙しさであったが、不思議と不満はなかった。
 それは、平和が戻ってきたことに対する喜びであったのかもしれない。」

彼が地球上をまたにかけて調査を進めていると、妙なうわさを耳にするようになる。
“蒼い死神”を見た、という人々がとある地域に存在するのである。
これに思い当たる節のあった彼は、時間さえできれば、独自に調べてみようと考えた。
彼は元々、好奇心が旺盛で、それが彼の高い情報収集能力を養っていた。
だが、今回ばかりは早々簡単にまとまった時間が取れるはずもなく、そのままになっていた。

 

 気が付けば、1年戦争が終結してから3年が経っていた。
この年の10月、ようやくほとんどの調査が終わり、まとまった休みを取ることができた。
そこで、いよいよあの『蒼い死神』に関する個人的な、なおかつ本格的な調査を始める。
彼が思い当たる節とは、以前キャリフォルニアベース攻略作戦にて遭遇した蒼いジムであった。
あのときは同行した部隊の准尉に“仲間である”と説明を受けたが、それ以上のことは聞くことができなかった。
彼はまずその部隊のメンバーと会ってみることを試みる。

「以前、キャリフォルニアベース攻略作戦に同行した際、私と親しく話してくれた准尉殿がいた。
 いや、今はもう少尉殿であるが。
 私は彼とのコンタクトを試みたが、まずは彼の所在地を探さねばならなかった。
 まぁ、私は諜報員であるので、それ自体はさほど困難ではなかったのだが、
 このとき、私にとって思いも寄らぬ事件が起こったのである。」

 

 U.C.0083年、この年に一体何が起こったのか。
これはU.C.0088年、ティターンズ崩壊、及びアクシズ反乱鎮圧後の情報公開によって明らかとなった。
連邦の関係者の間ではデラーズ紛争と呼ばれている事件である。
事件の概略は以下の通りである。
ギレン・ザビ親衛隊であったエギーユ・デラーズを中心としたジオン軍残党、
デラーズ・フリートが連邦に対して大規模な軍事行動を起こしたのである。
実は、公式記録から抹消されているため、一部に不明な点が残るが、
連邦が極秘裏で開発していたMSの内、1機を強奪されたのが始まりだったらしい。
(当時のトリントン基地に勤めていた連邦軍人の話による。)
結果、デラーズ・フリートは目的であった観艦式襲撃、及びコロニー落としに辛うじて成功。
その直後、連邦によって鎮圧された。
この事件はあまりにも謎や裏がありすぎた。
そのため、ミヅキ中尉は諜報員として再び公務に就かなければならなかったのである。
2度目のコロニー落としの影響、連邦内で極秘裏に進められていたMS開発計画の調査、
及びそれに関わった人物の詳細調査などである。
このとき、彼は極秘MSを無断使用したとされる新兵から証言を得ることを任務として与えられた。
しかし、この新兵は一向に口を開こうとせず、彼が調査に苦戦している間に、
MS開発計画そのものが闇に葬られてしまい(なかったことにされた)、この新兵の罪状も同時に消滅。
彼の調査は結局のところ、徒労に終わってしまう。

「“骨折り損のくたびれもうけ”とはまさにこのことだと、心から実感できた。(したくはなかったが。)
 せっかくの休暇を台無しにされた挙句、何の成果も得られなかった。
 私の応対した新兵、いや見た目は新兵などではなかった。(現に階級は中尉であった。)
 心身ともに疲労しているのがはっきりと見て取れたが、歴戦の猛者が宿すような瞳を彼はしていた。
 『君は、一体誰と戦っていたのか?何のために?』との私の問いに、彼は唇をかみ締め、常に沈黙でもって答えた。
 よほどのことがあったのは鈍感な私であってもわかる。
 しかし、これは仕事なのだ。
 彼には同情するが、かといって任務を放棄するわけにはいかない。
 私はこれによって日々の食事を得ているのだから。
 諜報員とは、得てしてこういう辛い仕事が回ってくる。
 正直言って、彼の罪状の消滅によって救われた人々の中には、私自身も含まれていると思っている。」

 

 これらが一応の決着をみたときには、時すでにU.C.0084年であった。
もはや1年戦争集結から4年も経過してしまっていたが、 今度こそ、という思いを込めて彼は“蒼い死神”に関する調査を再開する。
まず、当初の予定通り当時の准尉(仮にS氏としよう)と会うことにする。
S氏はMSパイロットの教官を目指すということで、勉学に勤しんでいた。
もっとも、MS操縦の腕前も健在でMSのテストパイロットも勤めていた。
S氏曰く、

『1年戦争でもMSの戦闘データを取るとか言って、テストをしてましたからね。
  まぁ、今やっていることも似たようなものですよ。』

とにこやかな笑顔で彼を出迎えた。
当時の他のメンバーは、終戦後、別々の部署へと配属となったらしい。
彼はS氏に“蒼い死神”について、尋ねてみた。するとS氏は、

『・・・。あまり思い出したくないですね。あの蒼い機体のせいで、何人もの人々が不幸になりましたから。』

S氏は寂しげな表情をみせ、多くは語らなかった。
だが、S氏は彼にたった一言だけ重要なことを告げた。

EXAM…という言葉をご存知ですか?全ては、そこから始まったんです。』

そういうと、S氏はこれ以上は自分の立場が危うくなるからと口をつぐんだ。
あとでミヅキ中尉は知ることになるが、EXAMに関する項目は極秘事項扱いとなっていた。
そこまでして、S氏が彼に伝えたEXAMとは何なのだろうか?
ミヅキ中尉はますます、この調査への興味を掻き立てられた。

「EXAM…、この言葉に私は引き寄せられた。
 試験、裁き・・・。そんな意味を持つこの言葉だが、果たしてこれがどのように蒼い死神とつながるのか。
 子供の頃に感じた謎へと迫るあの情熱が、この年になって再び燃え上がる。
 そのように感じた。」

だが、彼がEXAMの調査を始めて1年。
彼の調査結果は芳しくないものだった。
極秘事項に指定されているため、通常の情報では不確定であり、また情報そのものも少なかった。
彼は、ここに来て大きな壁にぶち当たってしまうのだった。

 

 U.C.0085年、彼は一つの決意をする。

「この謎が解けるならば、私には誇りなどいらない。
 今の私には、EXAMと蒼い死神の謎を解くことが全てであり、それ以外のことは他愛のないことにすぎない。
 誇りを捨てることで謎の核心に迫ることができるならば、私は喜んで誇りを捨てよう!」

彼は連邦政府高官である祖父の元へ赴き、頭を下げる。
今までの祖父のような権力を笠に来たやり方を、彼は忌み嫌っていた。
それだけに、祖父に反発したこともしばしばだった。
だが、今回は彼の得ようとしている情報のことごとくが、極秘事項と銘打って権力によって保護されているのである。
ならば、権力には権力で対抗するしかない。
これは、旧西暦時代から続く鉄則であった。
彼は誇りを捨て、祖父に対し頭を下げ、極秘事項特別閲覧許可を手にする。

 

  今まで手の届くところにありながら、権力で武装された極秘資料の数々を、 彼はその手で、その目で確かめることが可能になった。
そこには、彼にとって驚くべき詳細が書かれていた。
EXAMという名のシステムの実態(詳細は書かれていなかった)、
そのEXAMを生み出した一人の科学者の資料、そしてEXAMを搭載したMS同士の戦い。
最後に、このEXAMのベースとなり犠牲となった少女の資料。
これらを見て、彼はこのEXAMという哀しみに満ちた出来事を、 このまま闇に埋もれさせておくわけにはいかないと考える。
広く、一般に知らせこのような出来事が今後、二度と起こらぬように努める必要がある。
それが、今の自分に課せられた使命なのではないだろうか。
そう考えた彼は一つのレポートの作成に取り掛かる。

「この真実を私の胸の内に留めておくだけの腹黒さは、私は持ち合わせていなかった。
 それだけ、青二才であったという証拠かもしれない。
 だが、若さとは逆に武器にもなる。
 どんな無謀なことにでも、立ち向かうだけの勇気があるからだ。
 私は、この無謀な試練に挑むことを決意した。」

 

 U.C.0086年4月14日。彼は一つのレポートを書き上げる。
そのレポートの名は『EXAMシステムに関する考察』
彼は早速、これを公表しようと試みるが、彼の上官によって公表を阻止され、
さらには極秘事項漏洩未遂ということで、3ヶ月の減給という処罰が下る。
この程度の処分で済んだのは、もちろん裏で彼の祖父の圧力があったからに他ならない。
また、もう一つ理由がある。
彼の執筆したこのレポートが別の上官の目に留まり、非常に興味を示したというのである。
さすがにこのレポートを公表するわけにはいかないが、
もし、その上官に譲渡するというならば、ミヅキ中尉に温情をかけようというのである。
こうして、彼の書いたレポートはその上官によって極秘事項と指定された上で、 ニュータイプ研究所へと送られることになった。
皮肉にも、真実を語るはずのレポートが、また一つ極秘事項を増やしてしまったのである。
彼はまた一つ、旧日本地区の言葉遊びを覚えた。

『ミイラ取りがミイラになる。』

この一件によって彼の昇進には大きく響くことになったが、 それ以上に真実を公表できなかったというショックの方が彼には大きかった。

 

 意気消沈する彼の元に、一人の女性ジャーナリストが現れる。
彼女の名はジェシカ・ドーウェン
どこから調べてきたのか、彼がEXAMに関わるレポートを公表しようとしたことを知り、 興味をもって彼に接触を図ったという。
彼女自身もEXAMについて調査している一人であり、 EXAMに関わる情報ならば、どんなことでも欲していたのである。
彼は彼女からEXAMに関わる資料を見せられ、度肝を抜かれる。
一般人が、あの彼が見た極秘事項には及ばないものの、 相当な深さまで調査を行っていたのである。
これによって、彼の持つ探究心に再び火がついた。

「私は何を落ち込んでいたのであろうか。
 彼女の資料を見せられたとき、私は自らの甘さを実感した。
 彼女は、私よりも圧倒的に不利な状況下の中で、これだけの資料を集めてみせた。
 一方、私は軍の機密事項に手を出しておきながら、さらに極秘事項を生み出す手助けをしただけなのである。
 このままで終わるわけにはいかない!
 私の心の奥底にある、探究心がそう叫んでいたのである。」

彼は再びペンを手に取った。今度こそ、EXAMの真実を公表してみせる。
例えこの身がどうなろうとも、これだけは全人類が知っておかねばならないのである。
彼は連邦内に存在する全てのEXAMに関連すると思われる資料に目を通した。
それだけではない。
可能な限り、当時の部隊(第11独立機械化混成部隊であると判明した)のメンバーと接触を試み、
EXAM、そして蒼い死神について取材を申し込んだ。
調査対象が対象なだけに断られることも多かったが、匿名を条件に話をしてくれる人物もいた。
幸いにして、一人の人物(仮にM氏としよう)から話を聞くことができた。
彼は技術スタッフの一人であり、知っている限りでEXAMシステムに関しての話を聞くことができた。
M氏曰く、

『私はあの蒼い死神の担当でなかったから、あまり詳しいことは知らない。
  その機体には専属の“保護者”がいてね。指一本触らせてくれなかったのさ。』

と冗談を交えながらもM氏は語ってくれた。
M氏の協力もあり、彼はついにEXAMの全貌を知る。
そして、ついにその日はやってきた・・・。

 

 U.C.0086年6月24日。
彼はついに今まで調査した内容を全てまとめた『EXAMとは?』を書き上げる。
そして、今度こそという想いを込めて、この論文を一般に公表した。
・・・が、その直後、連邦軍によって回収。
一般にはほとんど出回らなかった。
彼には以前、極秘事項を公表をしようとした“前科”があったので連邦の対応があまりにも早かった。
彼は同僚であるはずの諜報部員たちによってマークされていたのである。
発表から1週間も経たずして、彼の論文はこの世界から姿を消した。
そして、ミヅキ中尉は軍法会議へ出廷を求められ、
その場でこの論文の正当性、EXAMの何たるかを説くが、頭の堅い連邦の上官たちには一切届かなかった。
これにより、ミヅキ中尉は予備役へと編入。
事実上、軍から追い払われたわけである。
今回ばかりは、彼の祖父の手助けもほとんど効果がなかった。
最悪、懲戒免職は逃れたものの、通常の業務からは完全に切り離されてしまったのである。
その後、彼はジャーナリストとなり、余生を送ることを決めたという・・・。

 

 ・・・しかし、人生とは何があるか全くわからないもので、 ミヅキ“中尉”としての役割がこれで終わったわけではなかった。
というのは、予備役というのは、平時には通常の生活を送っているが、 有事の際には軍人として実際に戦う人々のことであるからである。
運命は、まだミヅキ中尉を必要としていたのだった。
U.C.0087年3月2日。
反地球連邦政府運動エゥーゴ(A.E.U.G=Anti Earth United Government)により、
グリーンノア1に存在したティターンズの試作MS強奪事件が起こる。
これをきっかけとして、連邦内で内乱が発生。(グリプス戦争
なんと、予備役であったミヅキ中尉までも駆り出されることとなったのである。
このとき、ミヅキ中尉は諜報員としての役割よりもMSパイロットとしての働きが重視された。
エゥーゴとティターンズはどちらも連邦内の組織であり、戦闘の際には連邦軍を編入して戦っていたのである。
この時代、純粋な連邦軍人として戦った部隊は少なく、どちらかの組織と協力する形で戦闘を行っていた。
そのため、少しでも戦力を増強する必要があったのである。
こうした数奇な運命のめぐり合わせによって、ミヅキ中尉は再び戦場に立ったのである。

 

 

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