本作は2001年9月に発売された「リアルタイム戦術級シミュレーション」ゲームである。
折りしも、「ガンダムエース」の創刊や2000年末のPS2ソフト「機動戦士ガンダム」の発売等によって
21世紀早々に起こった空前のガンダムブーム初期に投入された作品である。
その名の通り、ジオン公国軍の特殊部隊「闇夜のフェンリル隊」を操り、プレイヤーは1年戦争を戦い抜く。
これまで外伝作品と言えば、基本的に連邦軍からの視点で描かれており、
ジオン公国軍の視点から描いた作品には恵まれていなかったが、
ようやくジオン公国軍ファンにとっては待ち望んでいた作品が誕生したのである。
本作はその評価が真っ二つに分かれるという非常に興味深い作品でもある。
その原因の一つは難易度の高さにある。
本作はこれまでのガンダムゲームと比べて、やや、あるいは非常に高い難易度を誇っている。
そのため最初の段階でプレイヤーを選んでしまうこととなったのである。
恐らく、本作を難しいと捉えているプレイヤーはどちらかというと本作をアクションゲームとして捉えている節がある。
というのも、これまでのガンダムゲーム、特に2000年末に発売されたPS2「機動戦士ガンダム」もそうであったが、
大半のガンダムを「操作する」というゲームはアクションゲームであり、
プレイヤーの立場は、(限定された)戦場を束縛されることなく自由に行動できる一兵士だったのである。
しかし本作は「闇夜のフェンリル隊」という1個中隊ほどの規模をもった部隊を統括する立場が要求されるシミュレーションである。
これまでのアクションゲームのように、戦場におけるその場その場のプレイヤーの自由な判断において
各ミッションを成功に導くのではなく、プレイヤー自身が作戦という名の制限の下に束縛されているのである。
これはミッション前のブリーフィングで既にミッションの成否が決していることになる。
それ故に、強引に戦線を突破しようとすれば、部隊は全滅するという憂き目を何度も見るハメになるのだ。
これを最初からシミュレーションゲームであることを念頭に置いた上でプレイできるプレイヤーならば、
すなわち、プレイヤーの立てた作戦においてCPUに全て操作を任せたとしてもミッションを成功に導けるプレイヤーであれば、
本作はこれまでにない最高傑作という評価が下されることになったであろう。
また、本作において批判が出たもう一つの理由は「ザクIIの神話性の崩壊」である。
名作として名高い「機動戦士ガンダム ギレンの野望」は戦略シミュレーションゲームであるが、
本作が世に出て名作と呼ばれるようになった所以の一つに、序盤戦におけるザクIIの圧倒的な強さが挙げられる。
国力差において圧倒的に不利な状況下にあるジオン公国軍が、
地球の3分の2もの地域を占領下にすることができたのは、ザクIIによるところが大きいのは言わずもがなである。
それ故に、「ギレンの野望」にて序盤戦の61式戦車やフライマンタを蹴散らす圧倒的な強さを誇り、
なおかつガンダムの登場後は次々と落とされていくザクIIの姿に、
プレイヤーは1年戦争を肌で感じることとなったのである。
しかし、本作には序盤戦におけるザクIIの圧倒的な存在感がないと言っても過言ではない。
戦車の大砲、ともすれば装甲車の機関銃ですらぼこぼこ落とされるザクIIを見て、
プレイヤーたちは「これではどうしてジオン公国軍は1年戦争の序盤を戦い抜けようか」と嘆き、憤慨したのである。
以上のような点でプレイヤーを選別することとなってしまった本作であるが、完成度は高い。
それ故にこの手のシミュレーションゲームが得意なプレイヤーならば、大いに楽しむことができるだろう。
また、ジオン公国軍の特殊部隊の視点から描かれるストーリーも必見である。
第二次地球降下作戦から始まり、ホワイトベース追撃、オデッサ作戦、キャリフォルニアベース防衛戦など、
1年戦争における有名な各作戦は、プレイヤーを1年戦争の世界へと誘ってくれることであろう。
特に、ここでは敢えて伏せておくことにするが、最終話の展開はジオン公国軍ファンならずとも、
身を打ち震わせ、感激すること間違いない。
本作はプレイヤーによっては非常に厳しいゲームかもしれない。
しかし、この最終話を見るためだけに努力する価値はあると、ここに断言する。
最後に、本作はこれまで設定が存在しながらも表には出てこなかったMSが登場している。
その最たる例がRX-78-6 マドロックことガンダム6号機である。
こうした外伝作品によって過去に埋もれた機体を引っ張り出し、メジャーにしたのは本作の功績と言えるであろう。
この試みは2003年9月発売の「機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙」の外伝シナリオにおいても受け継がれ、
同様に設定のみで埋もれていたRX-78-4 ガンダム4号機、並びにRX-78-5 ガンダム5号機の登場へとつながっていくのである。
現在、角川スニーカー文庫より『ZEONIC FRONT 機動戦士ガンダム0079』全2巻が発売中で、
筆者は外伝小説にて実績&定評のある林譲治氏が務めている。
ゲームがあまりにも難しく、クリアできなかったという方はストーリーを知るために読むのもいいかもしれないが、
本書は飽くまでジオン公国側が主役であるため、連邦側はお世辞にも見所があるとは言えない内容である。
クライマックスが連邦派にとってせめても情けであると思われるが、連邦ファンは覚悟して読むべきである。
と、ここで大幅に訂正。
ジオニックフロントコンテンツ制作のために改めて小説を見返していたのだが、
上記3行ほどは初めて読んだ当時の私の未熟さ故に感じた内容であったようだ。
もちろん、ジオン公国軍側が主役であるのは変わりないが、連邦側にも目を見張る箇所はある。
エイガー少尉に率いられ、61式戦車の集中砲火でザクIを撃墜する戦車隊。
戦略的理由から重要拠点を放棄せねばならぬ際、優秀な士官を一人でも多く防衛に用いたい思いは山々ながら、
しかし、後の反撃のために、彼らをMS開発の道へと送り出さねばならない。
司令官としても、送り出される士官としても納得のいくところではない。
それでも彼らは最終的な勝利を信じ、ジャブロー上層部の意向に従う道を選ぶ。
熱い!
かつて、1年戦争序盤の連邦軍をこれほど熱く描いた作品はあったであろうか?
ジオンファンにも連邦ファンにもお勧めできる1冊である。
ゲーム未プレイの方へはなおさらのことである。
本作を通して、ジオニックフロントの世界を堪能していただきたく思う次第である。
作品
「ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079」2001年9月6日(プレイステーション2)
「ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079(THE BEST)」2005年2月17日(プレイステーション2)
関連作品
小説「ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079」(1) 林譲治 角川スニーカー文庫 2001年8月
小説「ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079」(2) 林譲治 角川スニーカー文庫 2001年9月
ゲーム「機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles (LIMITED BOX)」 2002年8月1日(プレイステーション2)
ゲーム「機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles (通常版)」 2002年8月1日(プレイステーション2)
ゲーム「機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles (THE BEST)」 2005年2月17日(プレイステーション2)
ゲーム「ガンダムバトルタクティクス」2005年9月22日(プレイステーションポータブル)
ゲーム「ガンダムバトルロワイヤル」2006年10月5日(プレイステーションポータブル)
GFF「GUNDAM FIX FIGURATION #0020 マドロック(ガンダム5号機)」2004年9月6日
カードゲーム「ガンダムウォー」
オンラインゲーム「Gundam Network Operation(GNO)」2003年5月15日
オンラインゲーム「Gundam Network Operation 2(GNO2)」2004年9月1日
オンラインゲーム「Gundam Network Operation 2(GNO2) リニューアルプライス版」2005年12月8日